江本研究室

群馬大学医学部保健学科 基礎検査学講座生体防御学分野 群馬大学大学院保健学研究科 地域・国際ユニット 地域・国際生態環境情報検査学分野 生体防御学

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Vシネマバージョン(笑)

研究内容

New ver.

細胞内寄生細菌感染後のiNKT細胞の性状並びに機能的変化

現在、私達の研究室では各種免疫担当細胞の生体内における役割を解明しており、その中でも特に、invariant (i)NKT細胞に焦点を当てて研究を進めています。最近の研究において、iNKT細胞の細胞内寄生細菌感染症における役割を明らかにしました。iNKT 細胞は通常のT細胞とは明らかに性状を異にする細胞で、これまでNK細胞が特異的に発現していると考えられていたNKR-P1B/C(NK1.1)(CD161)を発現するユニークなT細胞です。本細胞の分化はMHC class Ib分子であるCD1dによって調節されており、通常のT細胞はMHC class Iあるいはclass II分子によって提示された抗原ペプチドを認識するのに対して、iNKT細胞はCD1d分子に提示された糖脂質を認識します。最近の研究により、iNKT 細胞は様々な病態に関与していることが明らかになってきましたが、細胞内寄生細菌感染症において、どのような役割を演じているのかについては殆ど明らかにされていませんでした。そこで、私達は細胞内寄生細菌の一つであるリステリア感染症をモデルにiNKT細胞の役割を解析してみました。その結果、iNKT 細胞は感染後に、機能だけでなく細胞表面上の分子の発現も大きく変動すること、これまでの概念に反して、iNKT細胞それ自身はリステリア感染に対して増悪的に働くこと、リステリア感染後、iNKT細胞上のNK1.1分子が一時的に検出できなくなるが、本現象は、iNKT細胞がアポトーシスにより死滅したのではなく、細胞表面に発現するNK1.1分子が消失することに起因すること等を明らかにしました。iNKT細胞は、通常タイプ1並びにタイプ2サイトカインの両者を産生しますが、感染後はタイプ1サイトカインのみを産生すること、並びにその理由はタイプ2サイトカインの主な産生細胞であるCD4+ iNKT 細胞のほうがタイプ1サイトカインを産生するCD4-8- iNKT細胞よりもリステリア感染に対して感受性が高いことに起因することも明らかにしました。これらのことについては、2006年発行の Infection and Immunity (74:5903-5913.)に掲載されていますので、興味のある方はお読みください。

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特異抗原と細胞内寄生細菌感染によるiNKT細胞上のNK1.1分子消失・再発現機構の差異

上述したごとく、iNKT細胞上のNK1.1分子は、細胞内寄生細菌感染によって消失しますが、その後iNKT細胞上にNK1.1分子が再発現するのかについては明らかにされていませんでした。また、iNKT細胞の特異抗原であるα-galactosylceramide(α-GalCer)によってもiNKT細胞は検出出来なくなりますが、その消失が、細胞内寄生細菌感染症と同じ機構によるものか否かについても明らかにされていませんでした。そこで、私達はリステリア感染後のiNKT細胞上のNK1.1分子の発現を、感染後期まで長期的に観察すると共に、α-GalCer刺激後にiNKT細胞が検出出来なくなる機構にIL-12が関与しているのか否かについて検討してみました。その結果、リステリア感染後、一時的にiNKT細胞上のNK1.1分子は細胞表面から消失するものの、その後暫くすると再び本分子が発現されるようになること、iNKT細胞上のNK1.1分子の変動は臓器内に産生されるIL-12の量によって規定されていること、iNKT細胞の特異抗原であるα-GalCerを投与した場合は、リステリア感染の場合とは異なり、IL-12非依存性に起こること、そしてリステリア感染により出現するNK1.1分子を消失したiNKT細胞(ドナー細胞)をRAG遺伝子欠損マウス(レシピエントマウス)に移入すると、レシピエントマウス中で再びドナー細胞上にNK1.1分子が発現されることを明らかにしました。このことは、リステリア感染によるiNKT細胞の消失が、本細胞上のNK1.1分子の消失によることを示唆しています。これらのことについては、2007年発行のMicrob. Infect.(9:1511-1520)に掲載されていますので、興味のある方はお読みください。また、刺激後のiNKT細胞上のNK1.1分子の消失・再発現機構とその解釈(意義)については、2008年のMicrob. Infect.(10:1036-1040)に解説しましたので、興味のある方はお読みください。細胞内寄生細菌感染症とiNKT細胞の関わりに関してもっと知りたい方は、2009年発行のYonsei Med.J. (50:12-21) に書きましたので、そちらをお読みください。

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iNKT細胞上のNK1.1分子消失・再発現は感染菌量(臓器内菌数)と必ずしも一致しない

私達はこれまで、iNKT細胞上に発現するNK1.1分子の意義を明らかにすることを目的として研究を遂行してきました。その過程で、感染菌量(臓器内菌数)が異なると、iNKT細胞上のNK1.1分子の動態が異なること、そしてその動態が予想に反して、感染菌量の多いほうが影響を受け難いことを見出しました。そのため、何故そのような奇妙な現象が起こるのかについて、感染菌量を変化させることによって観察してみました。感染菌量の違いに関係なく、感染早期よりiNKT細胞上のNK1.1分子は検出出来なくなり、その後NK1.1分子を発現しないiNKT細胞が出現しますが、少量のリステリアを感染した場合には、感染中期においても依然NK1.1分子を発現するiNKT細胞が検出出来ないのに対し、多量のリステリアを感染した場合には、感染中期において既に本細胞が検出されるようになることを見出しましました。また、Invitroで抗原刺激を行わない場合には、感染菌量に関係なくIL-12産生細胞数は同じなのに対し、抗原刺激を行った場合には、感染菌量の多いほうがIL-12の主な産生細胞であるマクロファージと顆粒球の浸潤数は多いにも関わらず、IL-12産生細胞数の少ないことを明らかにしました。このことは、iNKT細胞上のNK1.1分子の再発現は感染菌量とは逆相関し、感染菌量が多い程、逆にIL-12の産生を抑制することを示唆しています。これらのことについては、2008年発行のMicrob. Infect.(10:224-232)に掲載されていますので、興味のある方はお読みください。

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現在の研究

私達の研究室では、コレステロールの免疫系に及ぼす影響、iNKT細胞の新規リガンドの探索、天然物より抽出した腫瘍転移抑制物質並びに感染制御作用を示す分子の同定、新規腸管上皮間リンパ球の探索、感染症における骨髄細胞の役割、病原微生物感染症におけるNK細胞の役割、老化に伴う免疫担当細胞の質的変化等、様々な観点から免疫系の謎を解明しています。また、これらの研究を通して、安全性の高い新規機能性健康食品並びに新規医薬品の開発に向けて努力しています。

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